大判例

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福岡高等裁判所 平成3年(う)121号 判決

被告人は,シー・エルの代表取締役として,主として金融業を営んでいたところ,昭和58年4月,香港上海銀行福岡支店(支店長宮崎六郎)との間で,当座勘定取引を開始し,昭和59年7月には当座貸越契約を締結して同支店から多額の融資を受けていたが,昭和61年7月30日の時点で,シー・エルは多額の負債を抱える赤字会社であり,香港上海銀行の同社に対する信用供与がその限度額及び徴求済みの担保の総評価額をはるかに超えており,同社の既存債務の弁済はいうまでもなく,新たに約束手形を振り出してもこれらを自ら決済する能力が全くない状況にあり,被告人及び宮崎において右状況を十分に認識していた(中略)。

ところで,本件背任罪は,シー・エルが振出した約束手形に香港上海銀行福岡支店が手形上の支払保証をし,当該手形を金融業者に交付して同銀行に手形保証債務を負担させ,財産上の損害を加えたというものである(中略)。

しかして,関係証拠によれば,以下のような事実が認められる。

すなわち,被告人と宮崎は,銀行の帳簿上に右手形保証の事実を記帳することなく,その事実を隠しながら調達されたその資金を当座預金口座に入金して当座貸越の弁済に充て,一時的にせよ,当座貸越の残高を減少させることにより,シー・エルが正常な営業活動を続け債務の弁済能力があることを示す外観を作り出し,かつ当座貸越が減少すれば,引き続き当座勘定取引を継続することができるとともに,その中で過振り融資をすることが容易になるとの了解のもとに,一時的に当座貸越を減少させたうえで更に過振り融資をする目的(中略)で,(手形上の支払保証の)方法がとられた結果,当座預金口座に入金される一方で過振り融資が引き続き継続し,他方では保証手形が順調に決済されず,満期に手形の書き替えが行われる等して,結局,当座貸越の増加と未決済の手形保証債務の累積の両面から,銀行の負担,損害を増大させた。

そして,このような手形保証は,昭和60年11月18日付け1億円の約束手形に,支払保証がなされたのが最初で,(中略)その後,本件公訴の対象とされている手形保証の中の最初の手形保証がなされた昭和61年7月31日までの間に,8回にわたり18枚の約束手形に総額8億3000万円の手形保証がなされ,この期間に,右手形によって調達された資金がシー・エルの当座預金口座に入金されて当座貸越の弁済に充当される等の措置がとられる一方で,同銀行からシー・エルに対し多くの過振り融資が行われ,その結果の勘定は,本件手形保証がなされる直前の昭和61年7月30日の時点で,当座貸越残高が5億4280万8331円,保証手形の未決済分の累積が5億5000万円,合計10億9280万円余にも及び,当日までに満期が到来している手形について決済できず書き替えられている保証手形が多数存する(中略)。

本件起訴にかかる各手形保証も,従前のそれと同様の趣旨・目的で,同様の方法態様で実行され,かつ,その期間過振り融資も継続して行われ,本件保証手形の最後の分,すなわち昭和62年3月19日振出,金額3億円の満期は同月28日で(同日その決済がなされている。),その決済後の時点における当座貸越の残高は12億499万4200円,保証手形の未決済分の累積額は6億5000万円,合計18億5499万4200円にものぼり,前記の昭和61年7月30日の時点におけるそれと比較して7億6000万円余も増加している。

以上のごとき事実をもとに,本件背任行為たる手形保証によって銀行が財産上の損害を被ったか否かを検討するに,保証手形によって調達された資金が当座預金口座に入金されたとしても,それは当座貸越,すなわち既存債務の弁済に充当されていることは明らかで,保証手形の支払を担保するための資金提供とは認められず,銀行からの過振り融資という不正な融資を継続しないかぎり倒産が必至であったシー・エルにおいて右手形を決済することができず,満期が到達すれば銀行の負担においてこれを決済しなければならない蓋然性は極めて高く,香港上海銀行としては単に形式的にというにとどまらず,実質的に手形保証債務を負担したというべきところ,かかる背任行為たる手形保証によって銀行が被る損害の有無,すなわち,経済的見地において銀行の財産状態を評価し,右手形保証によって銀行の財産上の価値が減少したかどうかを判断するに当たっては,銀行による手形保証とその保証手形によって調達された資金が当座預金口座へ入金された,すなわち銀行に入金されたという,その時点における一時的現象のみで判断するのではなく,その金融取引全体を考察して判断すべきものと解され,かかる見地から考察すると,右資金が,銀行に入金されているとはいえ,保証手形債務支払の担保とされていないばかりでなく,既存債務たる当座貸越の弁済に充当されることによりその残高を一時的に減少せしめたうえ改めて過振り融資を行うという事前の合意に基づいてそれが実行されていることに着目すると,入金と同時に過振り融資が実行され,その入金が見せかけのものであったかどうかを個別に検討するまでもなく,右入金の事実をもって,手形保証に対応する反対給付,すなわち手形保証に見合う経済的利益と評価することはできず,本件手形保証により,香港上海銀行に実質的な新たな負担を生ぜしめ経済的損害を生ぜしめたと認めるべきである。

してみれば,原判示別紙二保証手形一覧表記載の約束手形3通の手形保証について,同行において財産上の損害が生じたとは認められないとして,背任罪の成立を否定した原判決は,事実を誤認したものであって,これが判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由がある。

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